これぞまさしくファミリーセダン 1950年代に思いを馳せる一台 1959y フォード フェアライン 500【ガレージジョーカー】
第二次世界大戦後、フォード初の新設計パッセンジャーカーとして誕生した1949年型は、瞬く間に後年のフルサイズカーのはしりとしてデザイン、メカニズム、装備の全てに渡って成長していくこととなった。1959年型はその一つの到達点だった。
先進を目指した戦後フォードの歩み
アメリカの多くの自動車メーカーにとって、第二次世界大戦に対応するため量産設備を全て軍用に回した戦時体制はドイツが降伏した1945年5月以降に順次解除された。そしてここから1941年以来停止していた新型車の開発が再開されることとなった。
フォードの場合、最初の戦後設計乗用車は1948年の秋にリリースされた1949年型フォード、そして上級グレードだったフォード・カスタムに端を発する。これがいわゆるフルサイズカーの始まりであり、1950年代から1960年代に掛けての大躍進のスタート地点でもあった。
今回紹介するのは、1959年型のフォード・フェアレーン500クラブセダンである。このモデルについてその性格やメカニズムを解説するためには、先に記したフォード・フルサイズカーの歩みをさらに掘り下げる必要がある。
戦後最初の世代のフォードは、1952年型において最初のモデルチェンジを受けた。ここではグレード名も一新され、下からメインライン、カスタムライン、そしてクレストラインと呼ばれることとなる。ホイールベースも前年までの114インチから115インチへとわずかながらアップされ、ベーシックブランドの大衆車とはいえ、次第に上級志向を目指すようになっていたことはまさに時代を象徴していた変化だった。
この時点におけるフォードのポジションは主力というべき直列6気筒エンジンを新設計のOHVにスイッチしていた他、戦前設計のサイドバルブとはいえ大衆車レベルでは存在しなかったV型8気筒を持っていたのが強みだった。そして、239ciのこのV8は、同じ排気量のままで1954年モデルからは新設計のOHVへと大きく変化する。これはライバルのシボレーに先駆けての採用であり、フォードがメカニズムの面で一歩先んじた瞬間だった。
個性的なスタイルとユニークなバリエーション
さてここからのフォード・フルサイズの歩みは折からの好景気を背景にしたさらなる大衆車の高級志向化と共に目まぐるしく変化することとなる。1955年のフルモデルチェンジではホイールベースを115インチから115.5インチへとわずかに延長、さらにクレストラインの代わりに、フェアレーンが最上級グレードとして登場する。
フェアレーンのスペシャルパッケージだったクラウンビクトリアには、プレキシガラス製のクリアルーフや美しいステンレスルーフを備えたハードトップボディも用意された。そして1957年モデルでは、またもやボディパネルを一新するモデルチェンジを実施すると同時に、フェアレーンの最上級グレードとしてフェアレーン500を投入した。空前絶後というべきパワーリトラクタブルハードトップを備えたスカイライナーが登場したのもこの年のことである。
ベーシックモデルだったカスタムと、その上級だったカスタム300のホイールベースはさらに0.5インチ延長され116インチとなり、フェアレーンとフェアレーン500はさらに2インチ長い118インチとなったことで、後年に続くフルサイズ的な風格が増したのも特徴だったと言って良いだろう。
エンジンに関しては既述した1954年デビューの239ciのV型8気筒OHVは、1955年には272ciと292ciに排気量をアップ、さらにパワフルなラインナップとなった。そして1956年には312ciを追加、翌1957年にはスーパーチャージャー仕様の312ciが登場するが、これはストックカーレースでの使用を前提とした300hpのスペシャルだった。
1958年モデルでは戦後第一世代のV型8気筒OHVだったそれまでのYブロックから、新設計のFEブロックである332ciと352ciが登場する。このユニットは1960年代においては最大428ciまで拡大されフォードの名機としてその名を残すこととなる。
50年代の最後を飾るフォードのベーシック
1959y Ford FAIRLANE 500
ここまで駆け足で戦後のフォードの歩みを追ってきたが、ここからは今回紹介している1959年型フォード・フェアレーン500クラブセダンについて詳細に探っていこう。
1950年代半ば以降のフォードのフルサイズカーは1958年型において、当時の最新モードだったSAE規格の4灯ヘッドライトを採用すると同時に、エクステリアデザインをさらに上級志向に改めるマイナーチェンジを実施した。
いわゆるフィンズ&クロームのフィフティーズルックとしてはこの年がピークであり、続く1959年型ではフロントマスクを中心に来るべき1960年代を前に、クリーンかつストレートなイメージが盛り込まれることとなった。 依然として基本的には豪華できらびやかではあったものの、ヘッドライトやグリルの周囲が整理されていたと言って良いだろう。
サンダーバードとのデザイン的融合を図った1959 年モデルフルサイズ
ウエストラインから上部こそ複雑なプレスラインで構成されているボディだが、フェンダーやルーフなどはフラットなラインで形作られている。
リアフェンダーの上部に、テールフィン全盛時代の名残を見て取ることができる。右側のフェンダーミラーは、レアなオプションである。
リアバンパーとわずかに融合するテールランプは、この後の時代、すなわち1960年代におけるフォードのリアデザインアイデンティティとなる。またCピラーのクロームトリムはフェアレーンより上位のモデルのデザイン的特徴であり、クロームメッキではなくステンレスプレートが使われていた。最初に導入されたのは初代フェアレーンである。前後それぞれメインとなるライトの上下に配置されたウインカー&バックランプが対象的で面白い。
フェアレーン500のホイールベースは、ベーシックモデルだったカスタム300よりも2インチ長い118インチだった。この数字は同年代のライバル車とほぼ同じであり、数年前までは115インチ近辺で推移していただったが、1960年代に向けて120インチ近辺へと大型化を見せることとなる。
1960年代には新たに誕生することとなるインターミディエイトがこのホイールベースレンジを担うこととなる。ボディデザインにもよるが、この時点でもそれほどの大きさは感じない数値である。
デコラティブからシンプルさを良しとした過渡期的インテリア
1959年型のモデルバリエーションは、下からカスタム300(カスタムは1958年に整理)、フェアレーン、フェアレーン500、そしてこの年から最上級パッケージとしてギャラクシーが加わった。これは独立グレードではなくあくまでオプションパッケージであり、実車ではフェアレーン500とギャラクシーの双方のエンブレムが装着されていた。
ボディバリエーションは、2ドアクラブセダン、4ドアタウンセダン、2ドアクラブビクトリアハードトップ、4ドアタウンビクトリアハードトップ、2ドアサンライナーコンバーチブル、2ドアスカイライナーコンバーチブル、2ドアランチワゴン、4ドアカントリーワゴンというもの。スカイライナーコンバーチブルは前述した通り、パワー作動のリトラクタブルハードトップを備えたモデルであり、ラインナップされたのはこの年が最後だった。
適応グレードは基本的に下位のカスタム300と、フェアレーンではハードトップやコンバーチブルの設定は無かった。カスタム300のみは、ホイールベースが116インチと他のモデルより2インチ短かったのも前年と同じ。
メカニカルコンポーネンツだが、まずエンジンは標準設定だったのは223ciの直列6気筒OHV(144hp)と292ciのV型8気筒OHV(200hp)というもの。前年途中までは272ciが設定されていたものの、1959年型では整理されていた。
今回紹介している個体に搭載されているのはこの292ciである。オプションエンジンは新しいFEブロックの332ciと352ciのV型8気筒OHVであり、332は240hpと265hp、352は300hpだった。
トランスミッションは、3速MTを標準に2速ATのフォードマチックと、3速ATのクルーゾーマチックが設定されており、エンジンによって組み合わせが異なる。サスペンションはフロントにダブルウィッシュボーン コイル、リアにリーフ リジッドと極めてオーソドックスであり信頼性を重視したものだった。
1959年型フォード・フェアレーン500の中で、紹介している個体は2ドアクラブセダン、スタンダードの292ユニット、3速MTと、グレード的には上級ながらボディバリエーションとメカニカルコンポーネンツはベーシックというユニークな存在である。そこにあるのは当時のアメリカにおける典型的なファミリーカーの姿であり、細部に至るまでオリジナルが維持されているのは素晴らしい。豪華に飾り立てられた最上級グレードの魅力に対して、まさに当時の売れ筋モデルというべきシンプルさは、現代の路上でこそ際立つ魅力を発していると言って良い。ぜひこのまま古に思いを馳せつつ乗りたい一台である。
横長のインストルメント、控えめなサイズのメーターフード、クロームのストレート基調トリムなどが1950年代のスタンダード。こうしたデザインが他国のクルマ、たとえば日本の1960年代に及ぼした影響は極めて大きかった。
この時代にして既にセンターコントロールのベンチレーターを装備していたのは大衆車としては先進のポイントだった。
これぞベンチシートの典型。フラットで飾り気の無い形状ではあったものの、しっかりしたスプリングによって座り心地は良かった。
プラスチック製のステアリングには歴史を刻むペイントの剥げが。これも味である。ホーンリングはお約束。
どことなく懐かしいデザインのスピードメーターとインディケーター類。1960年代の日本車を思わせる。
メーターパネルの下にはライトやワイパーなどのスイッチがズラリと並ぶ。ステアリングシャフトの上に見えるのはコラムシフトのリンケージである。単なるスイッチで良かったATとは異なり、マニュアルの方はそれなりに頑丈な構造となっていた。
SAE規格と4灯ヘッドライトは、1957年に規格として認証され一部の車種に採用された後、翌1958年から多くのモデルに採用された。1959年においてはブランドに関係なく採用範囲が広がっていた。バンパーのデザインが無骨過ぎるがこれもまた味である。
繊細なデザインのサイドウインドウサッシは、スクエアなボディラインと良好なマッチングを見せている。
1957年までというもの小さな丸型で統一されていたフォードのテールランプは1958年モデルでそのデザインを一新したものの、やはり丸型こそが相応しいということ一転して大きな丸型へと姿を変えた。前を行くクルマがフォードであることが一目で分かったまさにアイデンティティ。
フルサイズの上級モデルとして誕生したフェアレーンは、後にインターミディエイトの車名となる。
左右に回り込むラップアラウンドウインドシールドは、1950年代を代表する流行のデザイン。
ウインドシールドの下端にきっちり合わせてデザインされたワイパーブレード。ディテールの妙。
ドアハンドルは一転して無骨かつ握りやすいデザイン。実用性を重視すべきところは重視する。
リアホイールアーチのデザイントリムには、ベーシックブランドなりの上級への追求が見てとれる。
205hpを発生していた292ciユニット。Yブロックと呼ばれていたこのシリーズのV型8気筒OHVはフォードにとって最初の戦後設計V8エンジンだった。その設計は後継機種であり極めて長期に渡って数多くの排気量バリエーションを産むこととなるFEブロックの基礎となった。2バレルキャブの292は、ベーシックラインとして多くの車種に採用された。
1959y Ford FAIRLANE 500
全長×全幅×全高|208 inch×76.6 inch×56 inch
ホイールベース|118 inch
エンジン種類|V-8
総排気量|291.6 cu:in
内径×行程|3.75 in / 3.3 in
圧縮比|8.8 : 1
最高出力|200 hp/4400 rpm
最大トルク|285 lbs-ft/2200 rpm
燃料供給装置|carburetor
トランスミッション|3-speed manual
サスペンション・前|independent coil springs
サスペンション・後|semi-elliptic leaf springs
ブレーキ・前|hydraulic drum
ブレーキ・後|hydraulic drum
トレッド・前|59 inch
トレッド・後|56.4 inch
ホイールサイズ|14
タイヤサイズ|7.50 - 14
タンク容量|76 liter
車両重|3700 lbs
■取材協力/GARAGE JOKER【ガレージジョーカー】
https://www.garage-joker.com
■Text & Photos|アメ車MAGAZINE
最新記事
2024/11/21
【シェビーバンG20】子育て世代にはミニバン !?いやフルサイズ一択でしょ!
これまでアメ車を愛用してきた者たちがアメ車から離れるタイミングで比較的多いのが、子育てが始まった時。何不自由ない広々車内に加えて維持費も安い2Lクラスの国産ミニバンへと乗り換えるのがセオリー。でもフルサイズバンって選択肢も意外とアリ!?
2024/11/20
【ビッグバーンモータース】築き上げた知識と経験が信頼の証。
創業37年。アメ車に完全にシフトして30年になる埼玉のビッグバーンモータース。創業当時から整備に力を注ぎ、その長い知識と経験を頼りにするオーナーは数多い。
2024/11/19
アメ車好きの父の密かな夢、最愛の娘とのツーショット
16年前に当時11才だった愛娘と一緒にアメマガに登場したオーナーさん。娘が大人になってアメ車に乗り、もう一度一緒にアメマガに…。そんな夢を胸に秘めていたオーナーさんの夢が遂に実現。
2024/11/18
どんな車種でも装着するだけで、気ままなクルマ旅が楽しめる!【OVERLAND SPEC OUTDOORS ROOF TOP TENT】
オーストラリアに端を発し、アメリカや日本を初め、世界各地でユーザーが増加しつつある「オーバーランドスタイル」。様々なアメ車を販売するスカイオートでは、OSO製品を各種取り扱い中だ。